大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)2号 判決 1970年6月25日

原告 石原一美

被告 東京都大田区池上福祉事務所長 須賀恵一

右指定代理人 小杉政秀

<ほか一名>

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(一)  原告

「原告が昭和四四年一二月一日付をもってした生活保護法による保護申請につき、被告の不作為の違法があることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(二)  被告

主文と同旨の判決。

二  当事者の主張

(一)  原告主張の請求原因

1  原告は昭和四四年一二月一日付で被告に対し、生活保護法による保護申請をした。

2  被告は生活保護法第二四条第一項ないし第三項によって、右申請に対し、同年一二月三〇日までに書面をもってなんらか応答すべきであるのに、なんの応答もしない。

3  よって、被告の右不作為が違法であることの確認を求める。

(二)  被告主張の本案前の抗弁

1  被告は原告の生活保護法第七条に基づく昭和四四年一二月一日付保護申請書を受領し、直ちに保護の要否を決定するため調査しようとしたところ、原告の協力を得られなかったので、やむなく同年一二月二三日付をもって右申請を却下し、同日その旨を記載した通知書を原告に宛て発送したが、昭和四五年一月七日郵便官署から原告が不在のため送達できないとして返送された。そして、被告はその後右通知書を送達すべく、原告方を訪問しても、常に原告が不在であったので、同年二月一四日付をもって右通知書を受領されたい旨の通知書を発したが、これもまた、同月二八日郵便官署から返送された。そのうち、被告は同月二四日(本件第一回口頭弁論期日)東京地方裁判所構内で原告に出合うことができたので、郵便官署から返送された右申請却下を記載した通知書を直接手交するため、原告に対し自己の職名および右通知書の内容を告げたうえ、これを受領するよう要請したが、原告はその受領を拒絶した。しかし、原告は右通知書の内容を了知しながら、その受領を拒絶したのであるから、法律上、右通知書の交付を受けたものというべきである。

2  そもそも、行政事件訴訟法第三条第五項の定める不作為の違法確認の訴えは行政庁が法令に基づく申請に対し相当の期間内になんらかの処分または裁判をすべき義務を負うにかかわらず、これをしない場合に、その義務不履行の違法を宣言することにより不作為状態を解消させ、申請者のためその後の救済の道を開くことを目的としたものである。しかるに、被告は前記のように原告の生活保護法第七条に基づく保護申請に対し、すでに却下の決定をして、これを原告に送達したというべきであるから、原告主張のような被告の不作為状態は解消し、したがって、右不作為の違法確認を求める被告の本訴請求は訴えの利益を失ったものといわなければならない。

3  のみならず、生活保護法第二四条第四項によれば「保護の申請をしてから三〇日以内に第一項の通知(保護の実施機関の保護申請に対する決定通知)がないときは、申請者は、保護の実施機関が申請を却下したものとみなすことができる」旨規定されているから、仮に原告主張のように、被告が原告の保護申請につき、なんら決定をしていないとしても、原告はむしろ被告が右申請を却下したものとして、これが取消しを求める訴えを提起するのが筋道であって(なお、右の訴えの提起には同法第六九条の規定により、東京都知事に対する審査の請求を経るを要する。)、被告の不作為の違法確認を求める訴えは許されないと解するほかはない。

4  いずれにしても、本件訴えは却下を免れない。

(三)  右抗弁に対する原告の答弁

1  被告主張の右抗弁の1の事実中、被告が原告の昭和四四年一二月一日付保護申請書を受領したこと、被告がその主張日時、場所で原告に出合い、原告に対し自己の職名及び原告主張の文書の内容を告げたうえ、これを受領するよう要請し、原告がその受領を拒絶したことは認めるが、右事実に基づく見解は争う。被告が原告の右申請を却下したことは否認する。その余の事実は不知。

2  右抗弁中、2及び3の主張は、すべて争う。

(四)  請求原因についての被告の答弁

原告主張の請求原因中、1の事実は認め、2の事実は否認する。

三  証拠関係≪省略≫

理由

一  原告が昭和四四年一二月一日付で被告に対し、生活保護法による保護申請をしたことは当事者間に争いがなく、右申請が同法第七条に基づくものであることは、弁論の全趣旨から明らかである。従って、被告は同法第二四条第一項の定めに従って、右申請に対しなんらか応答すべき義務を負うにいたったものというべきである。

二  ところが、被告本人尋問の結果によれば、被告は昭和四四年一二月二三日右申請を却下する旨を決定し、その旨を記載した原告宛の通知書を作成したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。そして、被告が昭和四五年二月二四日(本件第一回口頭弁論期日)東京地方裁判所構内で原告に出会い、原告に対し自己の職名および右通知書の内容を告げたうえ、これを受領するよう要請したが、原告がその受領を拒絶したことは当事者間に争いがないから、原告は被告がなした右文書の受領催告に対し、これが記載内容を了知しながら、その受領を拒絶したものというべきところ、かような場合には生活保護法第二四条第一項にいう決定の書面による通知がなされたものと解するのが相当である。してみれば、原告がなした前記保護申請に対しては被告の応答がなされたものというべきであって、これが相当の期間内になされないことの違法の確認を求める原告の本訴請求は、訴えの利益を欠くにいたったものといわなければならない。

三  よって、本件訴えはその余の判断をするまでもなく不適法たることが明らかであるからこれを却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 駒田駿太郎 裁判官 小木曽競 山下薫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例